和室に入った際、「畳の縁(へり)は踏まないように」と注意された経験はありませんか?多くの方が「マナーだから」「畳が傷むから」といった理由を知っているかと思いますが、実はこのしきたりには、現代の私たちの想像を超える、もっと深く、時には恐ろしい意味が込められていたのです。今回は、単なる劣化予防に留まらない、畳の縁をめぐる奥深い雑学をご紹介します。
🧐 劣化予防は現代的な理由?昔の畳はデリケートだった
「畳の縁を踏んではいけない」理由として、最も一般的に知られているのが「畳の劣化を防ぐため」という説でしょう。
これは現代の畳にも多少は当てはまりますが、特に昔の畳は、植物染料で染められたり、耐久性の低い素材が使われていたりしたため、非常にデリケートでした。縁を踏むことで、そこだけが擦り切れたり、色落ちしたりするのを避ける必要があったのです。中央の強い部分を意識的に踏むことで、畳全体を長持ちさせる、一種の生活の知恵だったと言えます。
しかし、この知恵だけでは、武家社会で厳格に守られたこのマナーの背景をすべて説明することはできません。
🛡️ 武士の家では「命を守る」ための作法だった
最も興味深いのが、戦国時代から江戸時代の武家社会に由来する理由です。
- 家紋を踏む=侮辱行為 当時の武士の家では、縁にその家の家紋を織り込んだ「紋縁(もんべり)」が使われることがありました。家紋は家の権威と格式を象徴する神聖なもの。それを踏む行為は、家や主人に対する最大の侮辱と見なされたため、絶対に許されませんでした。「踏みにじる」という言葉があるように、踏むという行為自体が軽蔑の意味を持っていたのです。
- 暗殺者から身を守る「結界」説 さらに過激な説として、「暗殺者対策」があります。床下に忍び込んだ敵は、畳と畳の継ぎ目である縁の隙間から、上にいる人間を槍や刀で刺そうとしました。畳の縁を踏むことで、足元が不安定になったり、わずかなきしむ音で敵に居場所を教えたりする危険性があったため、縁を踏まず、常に中央を歩くことで身を守っていたというのです。畳の縁は、いわば「結界」であり、危険な境目だったわけです。
💡 現代社会にも通じる「気配り」のマナー
家紋も暗殺者も関係のない現代において、この作法が残っているのは、やはり「気遣い」や「思いやり」といった日本独自の文化に根差しているからでしょう。
縁を踏まないという行為は、単なる畳の保護だけでなく、家紋や家の権威を尊重する気持ち、そして、古来からの知恵や伝統を大切にする心を示す、美しい日本のマナーなのです。
和室を訪れた際は、この奥深い歴史を思い出しながら、そっと畳の中央を歩いてみてください。一歩一歩に、日本の文化が息づいているのを感じられるはずです。
【畳の豆知識】 現代の畳の縁は化学繊維製で丈夫になり、色柄も豊富です。お気に入りの柄を選ぶことで、和室の雰囲気を大きく変えることができますよ。


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