「世界の海は全部同じくらいしょっぱい」と思っていませんか?実は、地球上の海水の塩分濃度は場所によって微妙に異なっています。特に大西洋の海水は、太平洋の海水に比べて平均的に塩分濃度が高い、つまり「しょっぱい」という事実をご存知でしょうか?
これは単なる雑学ではなく、地球規模の壮大な海洋循環(サーモハライン循環)と密接に関わる重要な現象です。今回は、この興味深い違いが生まれるメカニズムを深掘りし、その背後にある自然の驚異に迫ります。
なぜ大西洋のほうが「しょっぱい」のか?主要な理由
大西洋が太平洋よりも塩分が高い主な理由は、以下の二つの要因に集約されます。
1. 蒸発量と降水量のバランス
大西洋の中緯度地域、特に熱帯や亜熱帯の海域では、太陽光が強く、海水の蒸発量が降水量や河川からの淡水の流入量を大きく上回ります。
- 蒸発は、純粋な水分子(H_2O)だけを気化させるため、海水中の塩分を残していきます。
- この蒸発が活発な海域、例えばサルガッソ海周辺などは、世界の平均(約3.5%)を上回る高い塩分濃度を記録します。
- 対照的に、太平洋は熱帯地域において降水量が比較的多く、また、河川の流入も多いため、大西洋ほど極端な塩分の上昇が見られません。
2. 「水のベルトコンベア」:大規模な海洋循環
塩分濃度の違いを決定づけている最も重要な要因が、地球の熱と塩分を運ぶ巨大な流れ、熱塩循環(サーモハライン循環)、通称「大洋のベルトコンベア」です。
この循環によって、高塩分の大西洋の水が地球規模で移動しています。
- 高塩分水の輸送: 大西洋、特に熱帯・亜熱帯地域で蒸発によって濃縮された高塩分水は、メキシコ湾流などの強力な海流に乗って北上します。
- 深層水の形成: 北大西洋の高緯度地域(グリーンランド沖やノルウェー海など)に到達したこの高塩分水は、冷やされて非常に重くなります。この冷たくて重い(高密度な)海水が深層に沈み込み、「深層水」となって地球の海底を巡る旅に出るのです。
この「沈み込み」のプロセスは、大西洋から大量の塩分を太平洋側へ、深層を通して間接的に送り込む役割を果たしています。
塩分濃度はなぜ重要なのか?
単に「しょっぱい」というだけでなく、海水の塩分濃度(塩分)は海洋学において極めて重要な要素です。
- 海水の密度: 塩分は水温と並び、海水の密度を決定づける二大要素です。塩分が高いほど海水は重くなり、これが先に述べた深層水の沈み込み(海洋循環の駆動源)を引き起こします。
- 生態系への影響: 塩分濃度の大きな変化は、繊細な海洋生態系、特に沿岸部に生息する生物に大きな影響を与えます。
- 気候システム: 大西洋の熱塩循環は、熱を低緯度から高緯度へと運び、特にヨーロッパの比較的温暖な気候を維持する上で不可欠な役割を果たしています。この流れが弱まると、地球全体の気候パターンに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
まとめ:壮大な自然のシステム
大西洋が太平洋よりも「しょっぱい」という事実は、蒸発と降水のバランス、そして地球規模の熱塩循環という、壮大で複雑な自然のシステムによって生み出されています。
この海洋の「塩分差」こそが、地球の気候システムを動かす重要なエネルギー源の一つとなっているのです。次に海を眺める機会があれば、ただ美しいだけでなく、その背後にある壮大な水の循環システムに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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